京都議定書発効に寄せて 西川榮一(神戸商船大学名誉教授)

京都議定書発効に寄せて
西川榮一(神戸商船大学名誉教授)

1.第一歩が踏み出された国連の温暖化対策

◇京都議定書ようやく発効

 炭酸ガスなど温室効果ガスの排出削減を目指す京都議定書が、ようやく2005年2月16日から発効することとなり、いよいよ温室効果ガス排出削減に向けて国際行動の第一歩が踏み出されることとなった。目指す削減計画の目標は、まず同議定書の付属書Ⅰに示される諸国の温室効果ガス排出量を、第一約束期間までに、1990年比で5.2%減らそうというものである。全体はそうだが、各国それぞれ個別に削減目標が割り当てられており、日本は6%削減することになっている。

◇発効にいたる経緯

 京都議定書は1997年12月京都で開かれたCOP3で採択されたのでこの名がある。採択から発効まで7年余もかかったわけだが、その大きな要因は、米国が京都議定書から離脱したことにある。京都議定書の発効要件は、①付属書Ⅰ国で批准した国の炭酸ガス排出量が全付属書Ⅰ国のそれの55%を超えること、②批准国数が55カ国を超えること、とされている。②については早くに達成されたが、①については、付属書Ⅰ国全体の炭酸ガス排出量の三六・一%にもなる最大の排出国米国が、ブッシュ政権になって、米国の経済に損害を与えるなどとして離脱してしまったからである。2004年11月、付属書Ⅰ国の中では2番目に排出量の多いロシア(全体の17.4%を占める)が批准し、ようやく発効することになった。

◇日本政府の温暖化政策

日本は2002年5月の国会で批准承認し、それと合わせて温暖化対策の根拠法である地球温暖化対策推進法を改正、新たな地球温暖化防止推進大綱を策定して90年比6%削減に向けた政策を進めている。しかしこのわずかに見える削減も容易ではない。いくつか論点がある。第1は、図にみるように、この間に排出量が増えてしまっているので、実質は14%以上も減らさねばならない。第2は、炭酸ガス排出削減の困難さである。

図1.日本の温室効果ガス排出量図1にみるように、温室効果ガスの大部分は炭酸ガスであるから、その削減が対策の主眼とならねばならない。炭酸ガスのほとんどは石炭石油など化石燃料の消費に伴って排出されるから、炭酸ガスの削減は化石燃料消費の削減を意味する。現在の日本は一次エネルギーの80%以上を化石燃料に依存しており、化石燃料を減らすにはエネルギー需給体系及びエネルギー技術体系の構造的転換を図らねばならない。エネルギー使用は社会のあらゆる分野に関係する。したがってわが国の生産経済の体制や構造も視野に入れた包括的な政策が必要である。第3は、現在国が進めようとしている削減政策、あるいはエネルギー政策そのものが持つ弱点である。大綱は、削減の取り組みは、国、地方公共団体、事業者、国民の自主的行動が重要だとし、温室効果ガスの主要排出者である産業界に対しても、規制などの方策はとらず、産業界の自主努力(経団連の「環境自主行動計画」など)に依拠する方針をとっている。またエネルギー政策も「環境と経済の両立」を基本方針にしている。これでは展望を持てる戦略的な削減政策は期待できない。
実際、この大綱による6%削減の目標(案)は、エネルギー使用に伴う排出量は1990年と同水準すなわち削減率ゼロ%、森林吸収で3.9%、技術開発や国民各階層の努力で2%などとなっていて、肝心のエネルギー起源炭酸ガス排出は減らない計画である。これでは、あとは京都議定書に盛り込まれた京都メカニズムといわれる緩和措置(削減目標以上に削減した外国などから炭酸ガス排出権を買ってくるという排出権取引、あるいは途上国で温室効果ガス削減事業を実施して、その分自国の削減量として勘定できるというクリーン開発メカニズムなど)を利用して数字を合わせるといったことになろう。

◇温室効果ガス排出削減は重大な政策課題

 IPCCは、温暖化に伴う破局的な影響を食い止めるには、早い時期に排出量を50~70%削減する必要があると指摘している。第一約束期間の削減目標ははるかに及ばない。京都議定書はだから第二約束期間の計画を立てることとしており、その議論が始められようとしている。温暖化対策が小手先の削減計画ではなく、長期にわたる戦略的なものであることが必要で、その政策は、生産、経済、社会にかかる諸政策の上部政策として位置づけられるべき課題になってきていることが理解されるであろう。優れて革新的な政策の立案が要請されているといえ、革新政党こそがその役割を担えるのではなかろうか。

[事項説明]

1992年リオデジャネイロで開かれた第2回国連環境サミットで、温室効果ガスの排出による環境悪化を防ごうという気候変動枠組み条約(UNFCCCと通称)が採択された。その後この条約に調印した締約国によって、温室効果ガスの排出を削減するための具体策を検討する締約国会議(COPと通称)が組織され、ほぼ年1回のペースで開かれている。1997年京都で開かれた第3回会議COP3において、最初の具体的な削減計画である京都議定書が採択された。

京都議定書は、2008-2012年の間(第1約束期間)までに、同議定書の付属書Ⅰの諸国(主に先進国からなる34ヶ国で、中国、インドなど途上国は含まれない)全体で、温室効果ガス排出量を1990年比5.2%削減するという計画。温室効果ガスとは炭酸ガス、メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄の6種類と定義されている。

2 進む温暖化とその影響

昨年は猛暑、豪雨、台風の来襲が続き、温暖化による異常気象ではないかと論じられ始めている。IPCC第3次報告や環境省資料などによって、温暖化の動向を概観してみよう。

IPCCのデータをみる

図2.地球表面の気温及び炭酸ガスCO2濃度の変化図2はIPCC3次報告による過去千年間の北半球平均気温の変化である。値は1961~1990年の平均温度を基準にして、その差で表されている。19世紀後半以後は温度計によって直接測られた値だが、それ以前は樹木の年輪などのデータから推定された値である。図には大気中炭酸ガス(CO2)濃度の変化も示してあるが、過去千年だけでなくこの先100年間の予測値も示されている。CO2濃度のデータは、20世紀後半以後は直接測られた値だが、それ以前は氷の中に閉じこめられた空気の成分を測った値である。
温度の図とCO2濃度の図の横軸年代は尺度を合わせてあるので、少し見にくいだろうが比べながら見て欲しい。図をみると、温度は1930年頃から上がり始め、とくに1970年頃以後上昇が急になっていること、この温度変化はCO2の濃度変化とよく似ていること、そしてCO2濃度も最近になるほど増加が急であること、などが読み取れよう。気温の上昇は否定できない事実である。

◇深刻化する温暖化の影響

温暖化の影響は、想像以上に、極めて広範多様に生じ、2次3次と連鎖反応的に広がっていくことが明らかになりつつあるが、最も端的に現れる影響の1つは氷の融解、海面の上昇である。最近の報道資料から抜粋してみると表1のようである。地球上全表面で、氷河、氷床、氷塊など氷結域で氷の融解が進んでいる。大規模に陸氷の融解が進めば、融解水は海面水位の上昇をもたらすと予測されているが、それより先に、気温上昇は海水温の上昇をもたらし、その分海水が膨張して水位が上昇する。IPCC報告にも世界各地の沿岸で水位上昇のデータが示されているが、日本沿岸でも、国立環境研究所によれば、 1970~2003年間に年2mm程度海面水位が上昇している。太平洋やインド洋の海抜の低い島嶼国では、水位上昇で海岸の浸食や水際の後退が進んでおり、重大な状況になっている。

◇温暖化の将来予測

このような温度上昇には、CO2など温室効果ガスの濃度増大が関係していること、そしてその濃度増大は人為的な温室効果ガスの放出が原因であることは、科学的な予測モデルによって確かめられている。それで、将来の人為的なCO2放出量を予想し、将来濃度がどうなるか、予測モデルを使って推定したのが、図の2000~2100年の部分である。曲線が何本か示されているのは、人口、社会経済、温暖化対策などによってCO2放出量が異なってくるいろいろなケースを想定し、それに応じてCO2濃度がどのように変化するか見たものである。想定ケースの中には環境重視型に変わるというかなり思い切ったケースも想定されている。問題は、それでもCO2濃度は相当上昇していくと予測されることである。これは対策を進めるのにも、また影響が現れるのにも長時間かかるからである。

◇日本での影響予測

最近、地球シミュレータ(世界最速のスーパーコンピュータ)を使い、国立環境研究所らによって日本独自の予測モデルが開発され、IPCCのモデルよりもきめ細かい影響予測ができるようになり、とくに日本に生じる影響について予測した結果が報道され始めている。たとえば
*IPCCの想定ケースの一つ(2100年CO2濃度720ppm)では、日本の2071~2100年の夏季平均気温は1971~2000年のそれに比して4.2℃上昇する(東京大学気候システム研究センター、国立環境研究所、海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センターの共同研究、2004年9月16日発表)
*温暖化による深刻な社会経済への影響を防ぐには、日本は2050年までに、温室効果ガス排出量を1990年レベルから少なくとも70%は削減する必要がある(東工大蟹江憲史助教授と国立環境研チーム、2005年1月31日共同通信)

◇確かな政策・計画立案とその実行

地球温暖化の重大な問題の1つは、影響が何十年、何百年も続いてじわじわ現れてくるということである。また対策を進めるのにも社会、経済の全面にわたるから時間がかかる。だから影響が大きくなってからでは遅い。したがって将来予測が重要になる。科学活動の最も重要な役割は、将来を予測して現在取るべき行動を示唆することである。現在の動向、将来予測に依拠して展望ある戦略計画を立て、その一刻も早い着手が迫られている。

[事項説明]

日本では“温暖化”という用語が使われるので、ここでもそれにならっているが、国際的には気候変動(climate change)という用語の方が多く使われる。正確にいえば、人為的な温室効果ガス排出に起因する気候変動問題、ということになろう。IPCCは気候変動に関する政府間パネルの略称で、1988年国連環境計画と世界気象機関によって設けられた、世界の第一線の専門家数千人からなる国際組織で、地球温暖化問題の調査、分析、評価を行っている。2001年に第3次報告が公表され、影響だけでなく、対策やその実現可能性についても評価している。

表1 世界各地で氷の融解進む

*グリーンランド2002夏の氷床68万平方キロメートル溶解、観測開始以来最大

*キリマンジャロ山の氷河、3年前最近10年で33%減少、あと15年で消失か?、と報道されたが、2005年3月英国環境団体が同山氷冠がほとんど消失した写真公表。融解予想以上に速く進行。
*アラスカ、カナダの氷河は厚さ年180センチのペースで溶解
*アンデス、アルプス、ヒマラヤの氷河も後退目立つ
*ヒマラヤでは溶解水で多数の氷河湖決壊の危機
*北極海、夏の永久氷面積90年代の10年で9%減少、2002年の氷海面積過去最小
*南極では大規模な棚氷の崩壊が発生
*富士山の永久凍土がこの25年で300m後退、面積大幅に減少
*カナダ最北部陸上の氷過去100年で9割消失、海上の氷過去15年で厚さ3分の1に
*EU環境庁、2050年スイスアルプスの氷河4分の3が溶解で消失と予測
*中国の氷河面積この40年で7%減少、1年間の溶解水量は黄河年間総流量に匹敵

3 炭酸ガスの排出実態をみる

2月16日京都議定書が発効した。第1約束期間の中央年2010年まで6年ほどしかない。90年比6%削減するには、この間排出量が増えてしまっているので2003年度排出量からみれば14%削減する必要がある。日本の温室効果ガス排出の実態はどうなのだろうか。日本の温室効果ガス排出総量の9割は炭酸ガスCO2なので、CO2についてみてみよう(排出量データは、本文中とくに説明ない限り環境省による)。

CO2排出量1990と2002の比較◇増え続けるCO2排出量、責任は国民?

図3は部門別のCO2排出量である。2002年でみると、エネルギー転換(電力生産などのこと)、業務など含めて産業分野が全体12.48億トンの64%を占めている。90年と比べて増えているのは運輸、業務、及び家庭分野である。これに対してエネルギー転換、産業分野は横ばいかわずかながら減っている。これをみて経団連などは、産業界は「環境自主行動計画」で努力して減らしているのに、運輸や家庭が増え続けている、温暖化問題の解決には国民一人ひとりの努力が不可欠だ、と指摘する。国の温暖化推進大綱も同様の方針を掲げている。

◇産業分野は本当に減らしているのか

図3によれば産業部門は90年比3%減っている。この中には農業水産業の減少分0.7%が含まれているから、鉱工業の減少は2%ほどである。一方この間の生産活動の推移をみると、鉱工業は全体的にみればほとんど伸びていない。生産が増えなければエネルギー使用量も増えずCO2排出量も増えない。総務省「日本の統計」によれば、2002年の鉱工業生産指数は90年比0.921で8%下がっている。この指数の減り方からみればCO2はもっと減ってもいいはずと思われる。要するに生産減による自然減に過ぎないとみられよう。事実、少し景気が上向いたといわれる2003年は、産業分野の排出量が前年比1.7%増えてしまっている。

1990と2002のCO2排出量の比較◇排出量を大きく増やしている電力事業

図3をみて、関電などの発電所では石油や石炭をたくさん燃やしているのに、CO2の排出量はえらく少ない、オカシイな、と思われる読者もいるのではなかろうか。じつは、図3は電力生産などからのCO2は、電力を使った者が排出したと勘定することにして、需用者に割り当てた数値になっている。実際は火力発電所からは膨大なCO2が排出されており、それを明示したのが図4である。これでみるとエネルギー転換分野では4000万トン、12%近くも増えているのが分かる(図3と4ではかなり印象が変わるが、マスコミなどで示されるのは図3が多い)。

1990年と2002年のエネルギー源別発電電力図5をみて欲しい。電力事業の発電実績である。90年と比べて最も増えているのは石炭火力の発電量で、1374億キロワット時も増やしている。周知のように石炭は燃料の中でもCO2を最もたくさん放出する燃料である。この増分でざっと1.12億トンも排出量が増えた勘定になる。この量は日本全体の90年CO2排出量の実に10%に相当する。電力産業が温暖化対策の決め手と宣伝する原発やLNG火力も増えているが、その効果を相殺し、なお4000万トンも増やす結果になっているわけで、まるで温暖化問題などどこ吹く風といわんばかりである。この間増設された石炭火力の中には、神戸製鋼会社が、阪神淡路大震災を奇貨とし、震災復興事業の名を借りて、同社敷地に建設した1400MWの発電所も含まれているだろう。同社はいまこの電力を関電に卸売りして儲けているのだが、同時に年間700万トンものCO2を排出しているのである。

◇運輸、家庭の排出状況

運輸の排出量増大が問題、と指摘されている。実態はどうなのだろうか。この部門のCO2排出量の9割は自動車であり、中でも乗用車が全体の5割を占める。エネルギー白書によれば、90年以後増大している自動車燃料消費の9割は自家用乗用車(マイカー)によるものである。CO2排出量は燃料消費量にほぼ比例するから、運輸部門で増えているCO2排出量の大部分はマイカーが原因している。
だからマイカーの省エネ化が重要である。然るに実態はどうなのか。環境白書によれば、マイカーの2002年平均重量は90年比20%以上増え、実走行燃費は9.46から8.38km/Lへ13%も悪化している。運輸部門のCO2排出削減で最も注目すべきマイカーに対して、自動車メーカは、より重くより燃料の食う商品をつくって売ってきた背景が伺える。運輸部門に関していえば、自動車偏重の交通政策の根本転換とともに、自動車の省エネ化クリーン化施策の抜本的強化が鍵といえよう。
家庭において、私たちが省エネや温室効果ガス排出削減を意識した生活を工夫し、進めることはもちろん重要だが、常用するさまざまな電気電子機器、家庭用品などを省エネ化、クリーンエネ化することはもっと重要である。エアコン、テレビなどさまざまな機器で、家電業界によって大型化、強力化、多機能化などを追求した新商品がつくり出され、宣伝されており、エネルギー多消費化の傾向はマイカーと似たような状況になっている。
商品製造やその販売に対する十分な施策を講じないで、使い方に気をつけよ、という啓蒙だけでは、大きな効果は期待できないだろう。

◇排出実態に見合った施策の追求を

CO2排出実態を概観したが、産業界は自主的にがんばっている、増えているのは国民にも責任がある、といった現在の温暖化政策は、実態に即したものになっているとは見えない。排出実態を調査分析し、合理的な温暖化施策の吟味が大切である。

[事項説明]

経団連「環境自主行動計画」は、産業界が温暖化対策、廃棄物対策に自主的に取り組むとして1997年に策定されている。CO2削減目標は2010年排出量を90年レベル以下に抑制(つまり削減率ゼロ)。経団連によれば、温暖化のような環境問題は規制や税金などの手法では対処が難しい。70年代の公害対策など従来型の規制的措置に代わる自主的取り組み、すなわち実態を最もよく把握している事業者自身が、技術動向その他の経営判断の要素を総合的に勘案して、費用対効果の高い対策を自ら立案、実施することが最も効果的だ、と考えているからだという。果たしてそうか?

4 わが国の温暖化対策をみる

京都議定書が発効し、日本は第1約束期間(2008~2012年)に、温室効果ガス排出量を90年比6%の削減義務がある。すでに国は1997年のCOP3以来温暖化対策を進めているが、にもかかわらずこの間90~2003年で排出量は8%増大しており、事実上14%削減しなければならない。日本の温暖化対策はどうなっているのだろうか。

◇我が国の温暖化対策の枠組み

日本で排出される温室効果ガスの9割はCO2であり、その大部分は化石燃料消費に起因する(エネルギー起源CO2)から、温暖化対策はエネルギー政策と強く関係する。両者の枠組みは表2のようである。温暖化防止政策は環境省、エネルギー政策は経済産業省で水と油という感じだが、具体的計画は推進大綱で決め、これを内閣が担当することによって全体を統括する、という構図が伺える。6%達成のための分野別目標をみると、肝心のエネルギー起源CO2の削減率は±0%とされているが、この間増え続けてきたから、対策としては実際これが最も大変である。大綱では実にさまざまな方策が並べられているが、主な方策は表に示した原発立地と省エネ対策の推進である。その具体化はエネルギー政策に依拠する。
表の下線部分見て欲しい。現在の対策には見過ごせない問題点が指摘される。すなわち
*目標は総量削減なのに方策は個別対策で、総量抑制に見合っていないこと
*対策推進が当事者の自主努力に依拠していること
*エネルギー政策が「経済と環境の両立」という方針堅持を謳っていること
*依然として原子力利用に大きな役割をかけていること
である。以下これらについて考えてみよう。

◇個別改善方式で総量削減は可能か

省エネ法は工場や事業場の省エネを規定しているが、判断指標はエネルギー消費原単位である。機器類に対するトップランナー方式も現在の製品性能と比べた相対基準である。つまり前者は生産量が増えれば相殺されるし、後者はたとえば自動車の燃費であるが、改善されても大型化、販売増加、自動車走行量増大などがあれば、総量は増えてしまう。しかもいずれも規制でなく努力義務でしかない。
日本は、高度成長期以来の大気汚染公害において、亜硫酸ガス汚染で、当初高煙突拡散方式による個別規制対策がとられたが汚染は広がるばかりで、逆効果であったこと、また自動車排ガス汚染で、自動車単体の規制だけでは見るべき効果が期待できなかったこと、結果として総量規制でなければ大気汚染は改善されないことを、多大の犠牲を伴って学んできたはずである。破綻済みの方式では大きな効果は期待できない。

◇当事者の自主努力で効果期待できるか

経団連は、温暖化のような環境問題は規制や税金などの手法では対処が難しく、70年代の公害対策など従来型の規制的措置に代わる自主的取り組みが効果的、と主張する。なぜなら、実態を最もよく把握している事業者自身が、技術動向その他の経営判断の要素を総合的に勘案して、費用対効果の高い対策を自ら立案、実施することが最も効果的、と考えているからだという。この論理はもっともらしくみえるが、じつは正しくない。
100年も前、当時ボイラ破裂事故が急増しその防止が問題になった。メーカは、ボイラのことはメーカが最もよく知っているし、事故を起こせばメーカは信用を失い最も大きな損害を被ることになるから、メーカこそが安全を守れる、メーカに任されたいと主張し、規制に反対した。しかし事故は増えるばかり、結局、国や第3者による規制方策が実施されてはじめて事故は激減したのである。安全や公害環境問題は、当事者でなく、第三者による管理、規制でなければ実効が期待できないことは、いまや常識である。原発データ改ざん、水質データ改ざん、汚染データ隠しなど、日々の報道事例を見ても明らかであろう。

◇「経済と環境の両立」という方針は可能か

日本のエネルギー政策も温暖化対策もこの方針に強く縛られている。この方針は、かつて論議となった“経済との調和”論を思い出させる。公害対策基本法など公害や環境汚染防止にかかる法令などが整備された1970年頃のことである。経済はもちろん重要であるが、経済と見合った公害対策を、ということになると、結局は経済優先に陥って公害を防ぐことはできないとして、この論は廃されたのであった。「経済と環境の両立」は、より積極性があるとはいえ、先に述べてきたような企業経営優先の日本産業界の体質が温存される限り、結局は経済優先になってしまうであろう。実際たとえば、環境省は対策として環境税の導入をあげているが、産業側の強烈な反対に会っている。
産業分野は社会全体からみれば部分である。システムの階層構造でいえば、産業システムは社会システムの下位にある。温暖化問題は上位の社会を危うくする問題である。このような階層システムの視点から見ても環境優先でなければならない、と筆者は考えている。

◇危なっかしい原子力依存

 2004年6月のエネ調報告「2030 年のエネルギー需給展望(中間とりまとめ原案)」は、現在供用中の53基の原発に加えて2010年までに4基増、2030年までさらに6基増、利用率は85%とみている。原発の増設“見通し”は年を追うほど減少してきてはいる。2010年までの増設目標は、1998年報告では20基、2001年報告では10~13基、そして今回は4基である。しかしこれは増加分であり、既設原発は2030年になってもすべて稼働という前提であるから、容量は増加一辺倒である。しかし、たとえ放射性廃棄物や軍事問題など原発が抱える克服困難な問題を抜きにしても、稼働中53基の老巧化が問題で、それらをかかえて利用率85%というのは事実上不可能であろう。

◇迫られる温暖化対策の立て直し

現在の温暖化対策では大きな削減効果は期待できない。実際あまり効果が上がっていないことは前章で見たとおりである。2004年度は推進大綱の中間チェックの年であるが、報道によればCO2±0%は早くも破綻しており、京都議定書第1約束期間の削減義務達成のために、国は施策の立て直しを迫られている。

表2 我が国の温暖化対策の枠組み
(温暖化問題はエネルギー問題と強く関係している。両政策の基本的な枠組み)

■地球温暖化対策(主担当;環境省)

◇地球温暖化対策推進法 (COP3契機に1998年制定、2002年改正)
  ↓(具体的計画は推進大綱で)
◇地球温暖化対策推進大綱(2002改新、推進本部長;総理大臣)

<目標>
2010年に90年比温室効果ガスを▲6%。その内訳目標はエネルギー起源CO2±0%、その他の温室効果ガス対策など▲0.5%、森林吸収▲3.9%、排出権取引など京都メカニズムの利用▲1.6%。

<方策>
*産業部門は経団連「環境自主行動計画」中心に企業等の自主努力
原子力立地の推進、省エネ法の活用
*植林等の吸収源対策推進
*革新技術の研究開発推進
*ライフスタイルの見直しなど

[経団連環境自主行動計画(1997開始)の目標]産業部門及びエネルギー転換部門の2010年CO2排出量を1990年レベル以下に抑制するよう努力

■エネルギー政策(主担当;経済産業省)

◇エネルギー政策基本法(2002制定)→エネルギー基本計画(2003決定)

<方針>
安定供給の確保、環境との適合、市場原理の活用

<温暖化対策>

推進大綱、省エネ法の施策と同様

◇経済産業省総合エネルギー調査会「エネルギー需給長期見通し」

<方針>
1996年12月では、経済成長、エネルギー安全保障、環境保全同時達成
2004年 6月では、「経済と環境の両立」

<温暖化対策>
推進大綱目標に見合うエネルギー需給計画で、主な方策は原子力立地と省エネ技術の推進

◇省エネ法(エネルギー使用の合理化に関する法律、1979制定、2002改正)

<目的>
燃料資源の有効な利用の確保
<方針>
エネルギーの消費原単位及び転換効率の改善を図る
<方策>
*工場・事業場に省エネ管理、改善計画の作成報告の努力義務
*建築物は、建築主に省エネの努力義務
*機械器具類(自動車、家電など)は、現在商品化されている製品の中で最も優れているエネルギー消費性能を判断基準に設定し、メーカ等に省エネ化の努力義務トップランナー方式という)
*省エネ対策、新エネ開発等に対する金融・税制等の助成

5 世界の炭酸ガス排出と国際共同の重要性

2002年世界のCO2排出量◇世界のCO2排出状況

図6をみると、米国だけで世界全体の排出量241億トンの23%以上を占める。サミットG7の7カ国で40%、ロシアを加えたG8では46%、わずか8カ国でほぼ半分を排出している。最近BRICsと呼ばれ注目されているブラジル、ロシア、インド、中国をみると4国で25%、中国1国で米国に次いで2番目に多い14%に達している。対してそれ以外の国々はどうだろうか。残りのアジア9.4%、中南米2.2%、アフリカは全土で3.1%に過ぎない。このような関係は、図7の人口1人当たりCO2排出量でみると、一層はっきりする。アフリカやアジアは世界平均の数分の1、これに対してサミットG8は世界平均の数倍を排出している。、アジア、アフリカ、インドなどの排出量と比べれば、米国やカナダは20倍、日本らは10倍ものCO2を排出している。
1人当たりCO2排出量の比較しかし温暖化による災害は排出負荷に応じて人や国を選んだりはしない。むしろ事態は逆で、真っ先に被害を受けているのは、大洋に位置する小島嶼国など、CO2排出に対して最も責任の少ない国々の人々である。これまでのサミットは、世界のヘゲモニーをどう維持するかといった力と利害を競う場であったわけだが、これら8国は温暖化問題に対して重大な責任を負っており、この問題を克服するためにどう共同するか、これからのサミットはこのことこそが課題とされるべきであろう。

◇成り行きに任せれば排出量は増える一方

BRICsが注目されるのは、最近これら4国の経済拡大のペースが大きくなっているからで、広い国土と大きな人口を要する巨大な市場の可能性を見てのことだろう。しかし生産の拡大は視点を変えれば資源エネルギーの消費拡大に他ならない。実際中国のこの10年の経済成長率は平均9%という、かつての日本の高度成長期に匹敵する恐るべきペースが続いており、鉄鋼材料など生産素材が世界的に不足になっているのはこの故である。であるからBRICsのCO2排出量は急激に増えつつあると思われる。
中国、インド、ブラジルは京都議定書第1約束期間に対する削減義務は課されていない。米国やオーストラリアは、だからが京都議定書の効果はない、といって離脱しているのだが、彼らの削減状況はどうなのだろうか。
いくつかの国の2002年CO2排出量の90年比増減%図8は、京都議定書付属書Ⅰ国のいくつかについて90年比排出量の動きを示している。文句をいっている国の方が排出量を大きく増やしているのである。離脱すれば増やすのは勝手だとでもいうのだろうか。この調子で成り行きに任せれば、CO2排出量は増えて行かざるを得ない。IEAは、成り行きで行けば、2030年には世界の1次エネルギー使用は2002年比60%増え、CO2は62%増えると予測し、京都議定書にあまり触れようとしないIEAではあるが、さすがに放置できないでか代替シナリオを議論している(IEA”World Energy Outlook 2004”)。
なお図8で、ECと米日豪とを比較すると、温暖化問題への取り組みが対照的なのが読み取れよう。ECは環境保全を重視し、計画的な環境戦略をもって動いていることが伺える。ロシアの削減が大きくみえるが、91年ソ連崩壊後の生産の落ち込みによるもので、持ち直してきたここ数年は増加傾向に転じている。

◇温暖化問題に駆け引きは無意味

温暖化問題の決定的特徴は、対策は地球規模の総量削減方式しかないということである。地域的な環境問題は、汚染がひどくなったらどこか別の場所へ捨てるという、系の拡大で解決可能な、すなわちコスト上の問題として解決可能な問題であった。しかしもう“別の場所”はこの地球上には無いと考えるべきなのである。温暖化問題は、他者と比較して経済力や政治力、あるいは軍事力などを背景にして、駆け引きで対処できるような相対的な制約条件の問題ではなく、絶対的制約条件の問題なのである。そうだとすれば温暖化問題への対処は国際共同でしかなし得ない。

◇日本の出番・・・・憲法を活かしてイニシアチブを

自国の利益をいかに通すか、といった従来の外交方策では展望は出てこない。人類共通の課題としてどう国際共同を展開するかである。こうみると、国際問題について日本国憲法がその前文と9条で規定している基本方針こそが、国際共同の可能性を開くものではないか、と改めて日本の憲法の意義が思い起こされる。この憲法を持つ日本は、その方針を活かせば温暖化防止の国際行動のイニシアチブをとれるのではないか。日本の産業界は日本の省エネ技術は世界一だと自負している。そうだとすれば、憲法と優れた省エネ技術、日本はこの2つを最大限に生かして世界に貢献すべき時であろう。いま日本の保守層は、武力手段導入のために憲法を改悪しようとしているが、温暖化問題が世界に提起している意味を考えれば、それは180度方向が間違っている。

◇国際共同の重要性

囲みの引用を読んで欲しい。エントロピーという重要な概念を導入して、熱力学の基礎を築いたクラウジウスが、今から100年前の19世紀末、当時ドイツのボン大学学長であった時、20世紀を迎えるに際して行った講演がある。囲みはその一節である。それを借りて、国際共同の重要性を訴えたい。

クラウジウスが行った100年前、19世紀末の講演より
「これまでの100年を際だたせる特徴は、蒸気機関をはじめとする諸機械の発明・改良により、過去には考えもつかなかった方法で自然のエネルギー源が人類の用に供されるようになったことである。他方、これから先数世紀の課題は、自然から与えられたエネルギー源の消費に関して、ある種の経済学を導入すること、および特に、古い時代からの遺産として大地にあり何物によっても代替できない諸資源の浪費を防ぐことである。転換の開始は早ければ早いほど、未来によい結果が得られるであろう。文明の先頭に立つ諸国家は、よく組織された国家が森林の開発を管理しているのと同じやり方で、炭田の開発を管理するために共同の行動を取るべきである。このような対策の実施を成功させるためには、確かに非常に多くの国家の協調が必要とされる。さまざまな国家の利害が対立していることを考えると、このような対策の実現はとうてい不可能と思われるかもしれない。しかし、直面している困難の大きさを過大に見積もってはならない。・・・・」(クラウジウス「自然界のエネルギー貯蔵とそれを人類の利益のために利用すること」の一節、小野周他編「熱力学第二法則の展開」、朝倉書店、1990、から引用)

6 温暖化防止対策の展望

これまでの諸章で、温暖化とその影響は現実に進みつつあること、それには人為的な温室効果ガス排出が強く関係していること、そして危機的な温暖化影響を避けるには温室効果ガス排出量を70%以上、とりわけ先進国はもっと厳しい削減が必要とされていること、それは、IPCC報告や地球シミュレータによる日本の分析、その他多くの調査分析が指摘するように、避けがたい課題として受け入れるべき段階にきていること、そして京都議定書が発効し、その課題に応える第1歩が踏み出されたが、さらに2歩、3歩と温暖化防止政策を進めなければならないこと、などについて述べてきた。これからの課題への対応はどうなのだろうか。

◇温室効果ガス大幅削減への動き

京都議定書発効に前後して、戦略的温暖化対策の構想づくりの動きが報道され出している。英国は2050年までに60%削減、仏は4分の1に、独も同規模の目標を決めているという。日本でも、環境省中央環境審議会は、短期(2020まで)中期(2050まで)長期(2100以降)の大幅削減計画を、また資源エネルギー庁は2050年に2002年比4分の1、2100年に20分の1に減らす超長期エネルギー計画をつくるという。
このような動きをみると、京都議定書第1約束期間以降を視野に入れて、温暖化影響の将来予測にかみ合う温暖化対策が、ようやく政策課題として取り上げられ始めたようにみえる。しかし1%、2%減らすのに四苦八苦している日本の現状をみると、このような削減の展望はあるのだろうか。

IPCC報告などにみる温暖化防止の展望

IPCC3次報告(2001)では第3作業班が温暖化対策の可能性の検討を行っている。国連の環境計画(UNDP)はまた別に、世界エネルギー会議(WEC)らと共同で「世界エネルギーアセスメント」を出している(2000年)。後者は「エネルギー、及び永続性へのチャレンジ」という副題が付されているように、温暖化など環境問題を視野に入れ、資源、技術、社会・経済など全面にわたる検討を行い、永続可能なエネルギー体系の可能性の評価を行っている。
現時点で最も総合的かつ具体的な検討報告と思われるこれらをみると、両者の指摘は基本的には一致している。技術的な手段はエネルギー供給面でも、エネルギー使用面でも十分可能性がある。IPCCは量的評価も行っており、現存する、あるいは実用化開発段階にある技術や手法を活用すれば、2010年時点で80億トン、2020年で160億トン程度削減できる可能性があるとしている(IPCC報告は予測に幅を持たせて炭素相当値で示されているが、ここではその幅の中央値をCO2に換算した数値を示す)。160億トンといえば、90年排出量の半分以上である。
ただし両報告とも、技術的可能性を現実のものにするには、計画的な政策が重要であると強調している。国の政策として環境税、規制、許認可、禁止、補助、性能基準設定など多様な政策手段を動員すること、温暖化防止政策を永続可能な社会を目指す社会経済政策と合わせて総合的な政策として進めること、国際共同政策を進めることなどを指摘している。

◇国内温暖化防止政策の立て直し

 技術的可能性はあるが、それを実際の削減効果に結実させるには政策がなければならない。実際、技術は社会的な要請をかけなければ進展しない。このことは、1975年当時の自動車排ガス規制の経過を思い起こせば理解されるだろう。将来予測に依拠した削減目標を設定するとともに、総量規制方式や第3者管理の仕組みの導入を図るなどして、4章でみた現在の政策の弱点を克服し、温暖化防止政策を立て直す必要がある。

◇国際共同への日本の役割

COPでは第2約束期間に向けての議論が始まる。前章で憲法の方針を活かして日本は国際共同を進める役割を、と述べた。今後のCOPに臨む上で二、三論点を挙げておきたい。
*世界目標は、すべての国の排出を対象に、IPCCなど科学的予測に基づいて設定
*すべての国を対象に、国別目標を世界目標達成の役割分担と位置づけ、人口、1人当たり国民生産、国民生産当たり温室効果ガス排出量などを考慮して設定
*途上国の排出削減は、国連の支援計画と連携して、先進国と途上国の共同実施で推進する。先進国との共同実施の方策としては、たとえば、CDMなど京都メカニズムを先進国の排出権として認めるのではなく、目的を転換して途上国に対する先進国の役割と位置づけ、その実施を割り当てる。

◇エネルギー技術体系の目指すべき基本方向

技術面で鍵をとなるのは動力・エネルギー技術であるが、最後に筆者の私見を述べさせて頂きたい。日本も含めて、現在、世界の動力・エネルギー体系の骨格は、化石燃料に依存する熱機関である。これが温室効果ガスの排出、その他窒素酸化物や浮遊粒子状物質など大気汚染物質排出の元凶である。温室効果ガス排出量を現在の4分の1、あるいはそれ以上に削減するには、このエネルギー体系からの脱却を展望しなければならない、と筆者は考えている。脱却のためには次の3要件を満たす技術体系の開発が必要で、それは永続可能なエネルギー体系の開発を意味することになろう。
*資源は太陽エネルギー
*不断に省エネを目指す仕組み
*安全でクリーンなエネルギー変換
この要件を満たすには、風力利用など再生可能資源利用が重要だが、中でも太陽電池・燃料電池システム、農業・林業と結びついたバイオマス・燃料電池システムなどが中心的技術になっていくだろう。だからこれら技術システムの開発利用に焦点を当てた政策が重要と思われる。

[事項説明]

現代は化石燃料に依存する熱機関時代
私たちの社会はエネルギー資源の多くを化石燃料によっているが、その大部分は、熱機関を利用し、動力や電力に変換して使っている。まず化石燃料を燃やして熱エネルギーに変え、その熱を利用してタービンやピストンを動かして動力に変え、その動力で機械を動かしたり、交通機関を走らせる。火力発電所では、その動力で発電機を回して電力をつくるのである。原発は化石燃料の代わりに核燃料を使うが、それを電力に変換する方法は熱機関であり火力発電と変わらない。このように動力や電力を得るのにエネルギー資源をいったん熱に変えるので熱機関と呼ばれる。自動車、船、航空機のエンジンも発電所の原動機もほとんど熱機関である。現在の工場やビル、家庭ではたくさんのモータ(電動機)を使っているが、モータを動かす電力はほとんどが熱機関を使ってつくられている。
直接熱が必要なときは、工場でも家庭でも化石燃料を燃やして熱を得るのであるが、動力や電力をつくるのにも、このようにいったん化石燃料を燃やしているのである。下図は2002年の1次エネルギー使用比率である。現在は化石燃料に依存する熱機関時代であるということがわかるだろう。産業革命以来、動力・エネルギーに関しては、化石燃料と熱機関を利用することによって世界が築かれてきた。このエネルギー体系からの脱却はだから、動力・エネルギー技術の歴史的転換を目指す大きな課題なのである。温暖化はそれを迫っている。

2002年の各種1次エネルギー使用比率%
■最近のニュースから

<国立環境研究所2月10日発表>

2月1~3日英国環境・食料・農村地域省主催で「温室効果ガス安定化濃度に関する科学者会合」が開かれ、
◇地球温暖化の影響に関するリスクはIPCC3次報告で得られた知見と比べ、より深刻であることが明らかとなった。
◇温室効果ガス濃度の安定化を達成するためには早期の削減対策が不可欠であることが強調された。

<米国情報 日経2月21日>

 カリフォルニア大海洋学研究所バーネット教授らが、世界の大洋の海面から深さ700メートルの層で観測された海水温の上昇は、人為的な温暖化の影響を計算で予測した値と95%以上一致した、と発表。バーネット教授は、人為的原因で温暖化が進んでいるかどうかについては、少なくとも合理的な考え方をする人々にとっては、議論は完全に決着がついた、といっているという。

7 おわりに

現代につながる人類文明の歴史が農耕生産の開始から始まったとすれば、それから1万年、そして現代の動力・エネルギー体系がニューコメンやワットの蒸気機関の利用から始まったとすれば、それから300年足らず、かかる歴史の中で、温暖化問題は人類社会最大の課題といっても過言ではないだろう。政治・経済が科学と結束して対処することが求められている。

<注>この小論は「大阪民主新報」に、2005年2月13日号から同年3月20日号まで6回にわたって連載された記事を、わずかな加筆訂正をおこなって、ほぼそのまま掲載したものである。